2013年08月 | 将棋の天地

今回の記事は、米長邦雄著の「不運のすすめ」に書かれてあります
「行乞のすすめ」について書きます。

今月の初め頃の記事に書きましたが、
山積みになっている本の山に足を引っ掛けてしまい
その本の山を崩してしまったところ、
「不運のすすめ」がそこから現れたのです。

この本を気が向いた時に読み直しております。

106ページから「行乞のすすめ」というのが書かれてあります。

行乞のすすめ

●米長道場の閉校式

米長道場は1998年（平成10）3月に閉校した。

開校から8年2ヶ月、多くの俊英がここから巣立ち、
将棋界を担いはじめていた。
それによって道場が一つの役割を終えたことを見届けて、
めでたく閉校としたのである。

閉校式には40名以上の若手棋士が集まった。
この8年余り、ともに研究してきた仲間たちである。
宴席は終始笑いに包まれていた。
森内君の酔った姿を、私は初めて見た。

森下塾長の挨拶、羽生四冠王の言葉があり、
道場主の私も激励とお礼の言葉を述べた。

「諸君の存在そのものが、日本の文化である」
「平素から将棋の普及に努め、
行乞（ぎょうこつ）の精神をもって底辺拡大にいそしんでくれ」

行乞とは、修行僧が食を求めて歩き、
あるいは人家の門前に立って修行すること、
つまり托鉢（たくはつ）である。
この言葉に、将棋の普及は金銭を離れた行為であり、
棋士としての修行の一つであるという思いを込めた。

●私利私欲を捨てれば道が開ける

今でも、行乞こそ将棋普及の原理であると考えている。

「年に何回か、ボランティアで各地の学校の将棋部の稽古に行きます」
「さびれた将棋道場に月に一回教えに行きます。
指導料はいただけるだけで結構です」

こうしたことをプロがしないで、
ただじっとしているのではいけない。
これからは、棋士全員が行乞をすべきである。

なぜなら、それが将棋ファンを増やすことになり、
次代の将棋発展につながり、
最終的にはプロ棋士たちもその恩恵に浴するようになるからである。
私利私欲を捨てて道を開くことで、
結果的に自らも幸福になれるのである。

問題は、棋士たちに本当にそれができるか、ということだ。
将棋に対する愛情、何としても将棋を普及させたいという情熱、
そしてプロとしての矜持（きょうじ）が問われるのである。

潜在的な将棋ファンは多い。
子供の数も多い。
その姿を見た時、妙なプライドを捨ててその人たちの中に飛び込み、
普及のために行乞ができるか。

それとも、それはプライドが許さんと考えるか。
今、棋士はどちらの道を取るべきなのか。
普及、それ以外にない。

プロ棋士全員がそうなりさえすれば、
日本中に将棋の花が咲く。
将棋に対する愛情とプライドを失わずに行乞する
という高邁（こうまい）な精神が、
今こそ棋士に求められている。

米長邦雄前会長が亡くなられましてから
もう結構な月日が経ちましたが、
今改めてこういうことを思い出してもいいですよね。

信心不足の方々のために、
この「行乞」のことについてあれこれと書きましょう。

「佛教語大辞典」からこの「行乞」を引用しますね。

【行乞】ぎょうこつ

乞食を行うこと。また托鉢。十二頭陀行の一つ。

いきなり「乞食」ときましたね。

でも佛教でいうところの乞食は
世間で言うところの乞食（こじき）とは異なるのです。
ちなみに佛教では「乞食」は「こつじき」と読みます。

「ではその乞食とはなんよ？」
ということになりますね。

これも「佛教語大辞典」から引用しますね。

【乞食】こつじき

托鉢。比丘（びく）の生活。
僧が人家の門に立ち、食を乞い求めること。
出家僧団の生活手段で、
一定に行儀にしたがい、在家から食を乞うこと。
律典によって異なるが、
午前中に行うこと、
生命をささえるにたるだけ受けること、
乞食によって在家に迷惑をかけないことなどのほか、
種々の規律が定められていた。
シナ以来、托鉢という名称で行われているが、
道心がなく、形だけまねたのは、
俗にいう「こじき」となった。
十二頭陀行の一つ。

こう書かれてあります。

この【乞食】関連の言葉もついでに書いておきましょうね。

【乞食四事】こつじきのしじ

比丘（びく）が乞食する際に守るべき四つの事。
（１）住正戒　
聚落に入って乞食するとき、身心をととのえ、正しい戒に住すること。
（２）住正威儀
乞食するとき、容姿をととのえ、威儀を正して人を敬信させること。
（３）住正命
仏の定めたしかたによって乞食し、
よこしまな生活で食を得ることをしないこと。
（４）住正覚
身は苦の本であるとさとり、
食はわずか身をささえるのみに満足すること。

【乞食四分】こつじきしぶん

比丘が乞食して得たものを四分すること。
一分は同じ仲間の修行僧に与え、
一分は貧しい人に与え、
一分は鬼神に与え、
残りの一分を自ら食する。

【乞食頭陀】こつじきずだ

十二頭陀の一つ。
衣食住を貪らず、乞食して清らかに仏道を修行すること。

【乞食鉢】こつじきはつ

乞食のための鉢。

このように書かれてあります。

「ところで、十二頭陀って何よ？」
ともなるでしょうね。

これもついでに引用しておきましょうね。

【十二頭陀】じゅうにずだ

出家修行僧の十二の生活規範。→頭陀

こう書かれてありますので、「頭陀」のほうも引用。

【頭陀】ずだ

①煩悩の垢を払い落とし、衣・食・住に貪りをもたず、
ひたすら仏道を修行すること。
衣・食・住に関する貪りを払い除く修行。
身心を鍛錬する種々の生活規律。
これに十二種ある。
十二頭陀行は、
糞掃衣・但三衣・常乞食・不作余食・
一坐食・一揣食・空閑処・塚間坐・
樹下坐・露地坐・随坐・常坐不臥
である。

②頭陀を実践する人。禅僧。

③特に乞食（こつじき）修行をいう。

こういうことだそうです。

米長邦雄前会長の「行乞のすすめ」。
たまにでもいいですから
関係者の皆さんは読み直されるといいですよね。

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2013.08.31 ( Sat ) 00:00:02 | Comment.0 | Trackback.0

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